昨日、国会で総理大臣の首班指名が行われ、高市早苗自民党総裁が内閣総理大臣に選出されました。
本記事では、2025年の自民党総裁選で高市早苗氏が掲げた公約のうち、税制に関係しそうなポイントを「個人」「企業」の視点で噛み砕いて解説します。
公約・報道ベースの内容であり、最終的な制度は今後の与野党協議や税制改正大綱、関連法の成立に左右されます。高市氏の主要公約(ガソリン暫定税率廃止、年収の壁引き上げ、給付付き税額控除の設計着手 など)はロイター等の記事を参考にしています。
目次
1分で要点
- 個人に直結:
- 企業に直結:
個人編:家計に効く項目
1) ガソリン「暫定税率」廃止(25.1円/L)——通勤・生活コストに直結
- 何が起きるか
現行のガソリン税は1Lあたり53.8円で、そのうち25.1円が上乗せ(暫定=当分の間税率)です。高市氏はこの暫定分の廃止を掲げています。制度が実現すれば、理論上は25.1円/Lの負担減。 - 実務的な注意
実際の小売価格は原油価格・為替・補助金の動向で変動します。補助金の縮小・終了が同時進行だと店頭値下げ幅は25円より小さくなる可能性も指摘されています。参考:ガソリン税の暫定税率は2025年内に廃止?残る課題とは - 家計インパクトの目安
月100L給油なら理論上2,510円/月の節約。年間では約3万円。ただし上記の通り実際の下げ幅は環境次第です。
2) 「年収の壁」を178万円へ——課税最低限の引き上げ(段階的)
- 現時点で決まっていることと今後期待されること
2025年度改正でまず所得税の非課税ラインは160万円へ(基礎控除・給与所得控除の見直し)。さらに与党+国民民主が「178万円を目指す」ことで合意しており、高市氏も大賛成と表明しています。今後は段階的な引上げの行方が焦点です。 - 誰に効く?
パート・アルバイト(学生含む)・副業層などの名目賃金上昇で税負担が先に増えるリスクを緩和。手取り改善と就業調整の緩和が狙い。 - 留意点
ただし、年収の壁178万円は住民税や社会保険の基準は別枠のようです。住民税の非課税ラインや社会保険の106/130万円基準は取り扱いが異なるため、総合での手取りは確認が必要です。
3) 給付付き税額控除(制度設計に着手)——「減税+給付」で取りこぼしを防ぐ
- ポイント
高市氏は消費減税よりも「給付付き税額控除」の制度設計に着手する方針。税額控除>納税額となる世帯に差額を給付(還付)できるため、非課税世帯にも支援が届くのが特徴です。Reuters Japan - 制度の型
給付付き税額控除は日本では導入されたことがなく、海外では、勤労税額控除型/児童税額控除型/社会保険料軽減型/消費税逆進性対策型などの設計があり、日本では社会保険料と連動させる案が有力視されているようです。
どのような制度になるにしても、年末調整等で、企業担当者には実務上の負担増える方向となりそうですので、今後の実務設計に注視する必要がありそうです。 - 生活面の効果
低〜中所得層で現金給付が加わることで手取りが増加。短時間労働の働き控えや社会保険加入時の手取り落ちの抑制にも効くとの分析。Di
企業編:CFO/人事・総務が構えておくべき点
1) 自動車税(環境性能割)2年間停止方針——社用車更新・販売に追い風
- 内容と狙い
高市氏は選挙戦で、自動車取得時に課される「自動車税環境性能割」を2年間限定で停止と明言しています。買い替え需要の前倒しで国内自動車産業を支える狙いがあるようです。Reuters Japan - 制度の現状
環境性能割は取得価額×0〜3%(軽は0〜2%)で、燃費基準の達成度で税率が決まる地方税。50万円の免税点や適用期間の区切りあり。停止となれば自動車購入時の初期負担が軽くなります。JAMA 一般社団法人 日本自動車工業会 - 実務アクション
①社用車更新のタイミング最適化(停止期間中の発注・登録)。②リース条件の再交渉。③販売側はプロモーション・在庫計画の見直し。
2) 投資促進(経済安保分野)——新たな優遇税制の可能性
- 方向性
高市氏は公約で、経済安全保障の成長分野に官民連携で積極投資する方針。対日外国投資の審査強化とセットで、国内投資に軸足を置く政策パッケージを想定。税制面では特別償却・税額控除(R&D/設備)などターゲット型優遇の新設・拡充が検討余地。Reuters Japan - 実務アクション
①成長分野投資(半導体・データセンター・グリーン等)のパイプライン整理。②補助金+税制のミックス最適化(事前届出・認定要件の確認)。③CVC・共同研究の枠組み評価。
3) 人件費・人事制度への波及(年収の壁・給付付き税額控除)
- 年収の壁の段階引上げで、人件費の予算・労働時間設計が変わる可能性。アルバイト・パートの就業調整が緩み、シフト拡大や人手確保にプラス。源泉・年末調整の実務は国税庁様式の改訂を待ちつつ早めにシミュレーション。KPMG Assets+1
- 給付付き税額控除が社会保険料還付型で実装されると、年末調整/確定申告の事務負担や給与システム改修が必要。人事・給与と税務の連携体制を平時から整備。
影響マップ
公約と影響、注意点を今一度下記の表にまとめました。
公約・論点 | 影響主体 | 関係税目/制度 | 期待される効果 | 注意点 |
ガソリン暫定税率廃止 | 個人・物流・企業 | 揮発油税・地方揮発油税(暫定25.1円/L) | 実質コスト低下 | 価格は原油・為替・補助政策で振れる。 |
年収の壁引上げ(~178万円) | 個人・企業(人事) | 基礎控除・給与所得控除等 | 手取り増、就業調整緩和 | 住民税・社保基準は別物。制度の段階導入に注意。 |
給付付き税額控除 | 個人(低~中所得)・企業(実務) | 税額控除(還付可)+社会保険料連動案 | 取りこぼし防止、逆進性緩和 | 実装方式で事務負担・財源規模が変動。 |
自動車税環境性能割の停止(2年) | 個人・企業・ディーラー | 環境性能割(0~3%) | 初期費用減→買い替え喚起 | 停止期間と対象範囲の要件確認。 |
経済安保分野の投資促進 | 企業 | 研究開発税制・特別償却 等(想定) | 国内投資の後押し | 対外投資審査の厳格化によるM&A実務のリードタイム増。 |
スケジュールの見取り図(想定)
- 今秋~年末:総裁選公約を踏まえた与野党協議(給付付き税額控除の制度設計、年収の壁の上積み、暫定税率の扱い 等。
- 年末~翌年頭:税制改正大綱→税制改正法案。所得控除・税額控除・地方税(環境性能割)の取扱いが明らかに。過去の合意・提案文書も踏まえ、160万円→178万円への道筋が詰まる見込み。
参考・出典
- 高市氏の公約概要(ガソリン暫定税率廃止、年収の壁引上げ、給付付き税額控除 等):ロイター「情報BOX」ほか。Reuters Japan+1
- 自動車税(環境性能割)2年停止の明言:ロイター記事。税率の基礎はJAMA。Reuters Japan+1
- 年収の壁:毎日新聞(178万円への賛同)、KPMGレビュー(160万円への引上げ)、大和総研(3党合意の整理)。Mainichi+2KPMG Assets+2
- ガソリン税の内訳(53.8円/うち暫定25.1円):DLRI等の解説。価格への実効影響は補助金等も勘案。DLRI+1
- 給付付き税額控除の制度論(類型、社会保険料還付型など):東京財団政策研究所・大和総研。東京財団+1
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