事業撤退で赤字でも税金が減らないのはなぜ?会計基準と税務のズレを解説

税金

最終更新日:2026年4月22日 | 監修者:浅井匠也(公認会計士・税理士)

📋 この記事の対象範囲

先日、インタビューを受けた記事がヤフーニュースにて、「ソニー・ホンダEV断念、1.3兆円損失の衝撃。税務から見る「賢い撤退」と赤字の行方」と題した記事となりました。
今回はさらにその内容を深ぼって、「会計と税務の差」「日本基準とIFRSにおける取り扱いの差」「キャッシュアウトと損益のズレ」3つの記事で解説してみたいと思います。この記事では、「会計と税務の差」について解説します。
扱う範囲などは以下の通りです。

  • 扱う範囲:法人が一部事業・製品ライン・工場・拠点から撤退する場面
  • 扱わない範囲:組織再編税制の細部、清算課税の詳細、国際税務の個別論点
  • 補足:日本基準とIFRSの違いは後半の別記事、キャッシュアウトと損益のズレは3本目の記事で詳しく扱います。

⚠️ 事業譲渡、工場閉鎖、人員削減、原状回復、在庫処分が同時に絡む案件は、一般論だけで処理すると危険です。金額が大きい場合は、会計・税務を同時に設計した方が安全です。

目次

事業撤退の費用計上は、会計が先、税務が後になりやすい

✅ ポイントまとめ

事業撤退では、会計が先、税務が後になりやすい構造があります。日本の会計基準では、事業の廃止・再編成、早期処分、用途転用、遊休化などは減損の兆候になり得るため、撤退の意思決定や使用停止の段階で減損損失が出ることがあります。

一方、税務では、評価損が損金になるのは法令・通達で定める事実がある場合に限られ、単に「撤退を決めた」「会計上減損した」だけでは、そのまま同額が損金になるとは限りません。

実務上は、①会計上の減損、②税務上の評価損、③除却損、④解体・退職・違約金などの費用を分けて考えるのが基本です。

どこがズレるのか:日本基準と税務の比較

日本基準と税務のズレを実務感で整理すると、下表のとおりです。

場面日本基準(会計)税務
撤退方針を決めた減損兆候の検討が必要それだけでは直ちに損金とは限らない
使用停止・再編・早期処分予定減損損失が出ることがある評価損は法令上の事実が必要
解体・廃棄・今後使用見込みなし追加損失や処分損を認識除却損・有姿除却で損金算入余地
退職金・違約金・原状回復費見積計上の余地あり債務確定で損金算入時期を判定

会計で先に出やすい項目

日本基準の減損会計では、資産または資産グループの回収可能価額が帳簿価額を下回るときに減損処理を行います。企業会計基準注解では、以下を「回収可能価額を著しく低下させる変化の例」として挙げています。

  • 事業の廃止・再編成
  • 当初予定より著しく早い処分
  • 用途転用
  • 遊休状態

減損損失は原則として特別損失で計上され、減損後も原則として減価償却を継続し、戻入れは行いません。

💡 重要な視点

会計の減損は「価値が落ちた」という認識であって、現金を支払ったという事実ではありません。そのため、損益計算書では大きな赤字でも、同じ期のキャッシュアウトは小さい、ということが普通に起こります。これは会計がおかしいのではなく、損益計算書とキャッシュフロー計算書が見ているものが違うためです。

税務で後ろにずれやすい項目

税務では、資産の評価損は原則不算入で、例外的に認められる場面が整理されています。国税庁は、固定資産について次のような事実がある場合を例示しています。

  • 災害による著しい損傷
  • 1年以上の遊休
  • 他用途への転用
  • 所在地の著しい変化

つまり、会計上の減損損失と、税務上の損金算入時期は一致しないのが普通です。

一方で、除却損のルートが税務では重要です。

  • 建物等を実際に取り壊した場合の帳簿価額は損金算入できる
  • 物理的に壊していなくても、今後通常の方法で事業の用に供する可能性がない固定資産(有姿除却)として除却損処理が認められる余地がある
  • 生産中止後に将来使用可能性がほぼない金型なども同様
  • ソフトウェアも、対象業務の廃止等で今後使わないことが明らかなら、除却損の整理が可能

退職金・違約金・解体費・原状回復費などは、税務では債務確定が軸です。国税庁のタックスアンサーは、損金算入できる費用の要件として以下の3つを示しています。

  1. 債務の成立
  2. 給付原因事実の発生
  3. 金額の合理的算定可能性

したがって、会計上で引当金や見積費用として計上していても、税務ではまだ早いという場面があります。

迷いやすいポイント

① 「撤退を決めた」だけで税務も落ちるのか

原則として、それだけでは足りません。税務は、評価損なら法令上の事実、費用なら債務確定、固定資産なら除却等の事実関係を見ます。会計と税務を同じタイミングで考えると誤りやすい論点です。

② 壊していない資産は絶対に落とせないのか

絶対ではありません。有姿除却の通達があるため、使用廃止後に通常の方法で事業に供する可能性がない資産などは、物理的除却前でも除却損処理の余地があります。ただし、将来再利用の余地が残ると結論が割れやすいので、事実関係の積み上げが必要です。

③ 解体費は全部そのまま損金か

そうとは限りません。土地と建物を取得し、当初から取り壊して土地利用する目的が明らかな場合は、建物帳簿価額や取壊費用が土地取得価額に入る扱いです。逆に、当初は使うつもりだったが後からやむを得ず断念した場合には、損金算入余地があります。取得時の意図はかなり重要です。

④ 税効果会計も見るべきか

見るべきです。会計で先に損失を出し、税務が後でついてくる場合、実務上は一時差異の整理が必要になります。とくに金額が大きい撤退案件では、税金費用の見え方まで変わります。

最近の国内事例:旭化成の事業撤退

旭化成は、2025年5月27日にMMA・CHMA・アクリル樹脂・SBラテックスからの事業撤退とアセトニトリル供給体制の再構築方針を決議しました。有価証券報告書では以下を開示しています。

  • 対象事業の売上高:34,635百万円
  • 翌連結会計年度の事業構造改善費用:約25,000百万円
  • 生産・販売終了時期:2026年〜2027年にまたがる予定

さらに、同社の2026年3月期第1四半期の説明資料では、特別損失が「マテリアル」におけるMMA等の事業撤退に伴う損失等で悪化したと説明されています。

📌 この事例から読み取れること

撤退の意思決定・会計上の損失認識・税務上の損金時期・実際の生産停止や現金支出が、必ずしも同じ期に揃わないことを示す分かりやすい例です。

必要書類チェックリスト

  • 取締役会議事録、撤退方針決裁書:撤退の意思決定時点と対象範囲を示すため
  • 対象資産一覧、資産台帳、減損計算資料:会計上の減損と税務上の除却・評価損を切り分けるため
  • 解体・撤去・廃棄の契約書、見積書、完了報告:除却損や関連費用の損金算入時期を立証するため
  • 今後使用しないことを示す資料:有姿除却の判断材料として
  • 退職金規程、個別合意書、違約金・解約金の契約書:債務確定時期を確認するため
  • 在庫処分・値引販売・廃棄の記録:在庫評価損や処分損の説明資料として

よくあるご質問(FAQ)

Q1. 減損損失を計上したら、その期の法人税は必ず減りますか?

必ずではありません。税務で評価損が認められるのは法令上の事実がある場合に限られ、会計上の減損と税務上の損金はズレることがあります。

Q2. 壊していない設備でも税務上落とせますか?

使用を廃止し、今後通常の方法で事業の用に供する可能性がないと認められるなら、有姿除却として整理できる余地があります。

Q3. 退職金や違約金を見積計上したら、その期で損金ですか?

税務では債務確定が必要です。①債務の成立、②給付原因事実の発生、③金額の合理的算定可能性、の3つを確認する必要があります。

Q4. 土地と建物を買ってすぐ壊した場合はどうなりますか?

当初から更地利用目的が明らかなら、建物帳簿価額や取壊費用は土地取得価額に入る扱いです。後からやむを得ず断念したケースとは結論が分かれます。

参考リンク・根拠

  • 企業会計基準委員会「固定資産の減損に係る会計基準注解」「適用指針」
  • 企業会計基準委員会「企業会計原則注解 注18 引当金」
  • 国税庁「販売費、一般管理費その他の費用における債務確定の判定」
  • 国税庁「除却損失等の損金算入」「有姿除却」
  • 国税庁「固定資産の評価損」関係通達
  • 国税庁「土地とともに取得した建物を取り壊した場合の土地の取得価額」
  • 旭化成 有価証券報告書・決算説明資料

免責事項:本記事は一般的な情報提供であり、個別案件の結論を保証するものではありません。撤退スキーム、契約条件、資産の利用状況、支払確定時期によって結論は変わります。具体的な判断については、公認会計士・税理士にご相談ください。

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