今の事業は続けながら、新しいサービスを始めたい。設備や在庫にはまとまった資金が必要で、ちょうど決算も近い。「新しい決算書ができてから金融機関へ相談した方がよいでしょうか」という場面です。
決算後まで待てば、確定した数字を出せます。ただ、待っている間に発注や支払いが先に来れば、資金が必要な時期に融資が間に合いません。反対に、急いで申し込んでも、試算表が数か月前で止まり、資金使途の見積書もなければ、説明のやり直しになりやすいところです。
決算前、申込みは数字と必要時期を見て決めます
新規事業の融資は、決算前か決算後かを二者択一で考えず、まず決算前に相談し、申込時期は「資金が必要な日」と「説明に使える数字」の両方から逆算するのが実務的です。
金融機関へ提出するのが前期の決算書であっても、当期の試算表、資金繰り、既存借入、納税状況、新規事業の見積書を組み合わせれば、直近の状況を説明できます。一方、決算が目前で、完成後の数字が会社の実態をより正確に示すのであれば、決算書の完成を待つ選択肢もあります。
ここで大切なのは、「きれいな決算書ができるまで待つ」ことではありません。いつまでに何を確定させれば、希望する時期の入金に間に合うかを決めることです。
決算前と決算後、それぞれの使いどころ
同じ会社でも、資金の必要時期と当期業績によって判断は変わります。まず次の表で、どちらの資料を軸にするかを整理します。
| 状況 | 考えやすい進め方 | 追加で必要な説明 |
|---|---|---|
| 発注・支払が近い | 決算前に相談し、現行の決算書と最新試算表で進める | 未確定科目、今後の入出金、決算着地見込み |
| 当期業績が大きく改善 | 決算完成を待つか、改善を示す月次資料を添える | 売上増加の根拠、一時的な要因の有無 |
| 決算書と実態の差が大きい | 申込み前に帳簿と残高を整える | 仮払金、役員貸付金、在庫、売掛金等の内訳 |
| 新規事業の入金が遅い | 月別の資金繰りを先に作る | 赤字期間を賄う運転資金と返済開始後の余力 |
| 決算まで時間がある | 早めに相談し、月次の進捗を更新する | 計画と実績の差、見積・契約の進捗 |
決算書が新しいだけで融資が決まるわけではありません。日本政策金融公庫も、面談では資金の使いみちや事業計画を確認し、事業計画に関連する資料や資産・負債が分かる書類の準備を案内しています。審査基準や必要資料は、金融機関、制度、会社の状況によって異なります。
最初に確認したい5つの「つながり」
1.資金使途と見積書がつながっているか
「新規事業に必要なので1,000万円」と書くだけでは、何に、いつ、いくら支払うのかが分かりません。設備、在庫、保証金、広告、採用、当面の固定費などに分け、見積書や契約案と対応させます。
設備資金と運転資金は、資金の性質が違います。設備代だけでなく、売上入金までに必要となる給与、家賃、仕入、外注費、税金も月別に並べます。
2.試算表と預金残高がつながっているか
試算表が黒字でも、売掛金の回収前であれば現金は増えていません。反対に、代表者から会社へ入れた資金で預金が多く見えていることもあります。
少なくとも、主要な銀行口座、売掛金、買掛金、在庫、固定資産、既存借入、役員貸付金・借入金は、内訳と残高を確認します。「会計ソフトに数字がある」ことと、「金融機関へ説明できる」ことは同じではないんですよね。
3.売上計画と入金時期がつながっているか
売上予測は、単価×件数×稼働回数など、実際の商売の動きに分けます。そのうえで、契約月、納品月、請求月、入金月をずらして資金繰りへ落とします。
利益が出る計画でも、代金の回収が二か月後で、仕入や人件費を先に払うなら、その間の資金が必要です。融資額は設備の購入額だけで決めず、入金までの谷を埋められるかで確認します。
4.返済期間と投資の回収期間がつながっているか
長く使う設備や、数年かけて収益を生む事業に対し、借入金を短期間で返す設計にすると、利益が出ていても資金繰りが苦しくなります。返済開始月、毎月返済額、既存借入との合計、投資から生じる現金を並べます。
日本政策金融公庫の創業の手引では、返済財源の見方として、利益に減価償却費を加える考え方が示されています。ただし、実際には税金、既存返済、運転資金の増加、設備更新もあります。計算上の返済財源が、そのまま自由に返済へ回せる現金とは限りません。
5.納税・社会保険と借入申込みがつながっているか
法人税、消費税、源泉所得税、社会保険料の支払時期を資金繰りに入れます。未納や分納がある場合は、申込み直前に隠すのではなく、残高、理由、解消予定を先に整理します。
納税証明書など、申込先から求められる書類は制度により異なります。取得してから記載内容に気付くのでは遅いため、相談時に税務署や年金事務所から届いた通知も確認します。
決算前・決算後を決める簡単な判断フロー
- 資金が必要な日を決める:発注日ではなく、実際の支払日と最低限必要な着金日を置きます。
- 申込みから着金までの余裕を取る:審査期間は案件ごとに異なるため、希望日の直前を前提にしません。
- 現在使える資料を確認する:前期決算書、直近試算表、資金繰り、見積書、借入明細をそろえます。
- 決算完成を待つ効果を比べる:業績改善が明確になるのか、単に時間が過ぎるだけなのかを分けます。
- 金融機関へ事前相談する:決算前資料で進めるか、決算後がよいかを、具体的な数字と期限を示して確認します。
新サービスを始める場合
ある会社が、新サービス用の設備と運転資金を合わせて1,200万円必要としていました。決算は三か月後ですが、設備代の支払いは二か月後です。新サービスの入金は開始から四か月後になる見込みでした。
この場合、決算後まで待つと支払日に間に合わない可能性があります。そこで、前期決算書に、直近試算表、1,200万円の使途内訳、月別収支、入金までの資金繰り、既存借入の返済表を添えて事前相談します。
同時に、個人立替や未処理の仮払金を整理し、試算表のどこが確定値で、どこが見込みかを明示します。結果を保証するものではありませんが、金融機関が確認したい数字と会社が必要とする期限を、同じ時系列で説明しやすくなります。
相談前に準備したい資料
- 直近二〜三期分の決算書・法人税申告書一式
- 直近月までの試算表と、未処理事項の一覧
- 銀行口座、借入金、売掛金、買掛金、在庫の内訳
- 新規事業の概要、顧客像、販売方法、価格の根拠
- 設備・仕入・外注等の見積書、契約案
- 月別収支計画と資金繰り表
- 既存借入の返済予定表
- 納税・社会保険の支払状況が分かる資料
資料が全部そろうまで相談を待つ必要はありません。不足資料が何かを確定し、誰がいつまでに準備するか決めるところから始めます。
税理士へ相談するなら、契約や発注の前がよいです
税理士は、試算表の精度、税金の支払予定、設備の会計処理、借入後の月次管理を整理できます。融資支援の範囲は、金融機関の紹介、事業計画の作成補助、面談準備など、契約によって異なります。
浅井匠也税理士事務所では、千葉の法人・事業者を中心に、新規事業の資金計画と会計データを一緒に確認しています。創業時の融資は創業融資サポート、継続的な会計・税務支援は法人向け税務・会計サービス、現行の料金は法人顧問料金をご覧ください。契約期間や追加業務は、見積書・契約書で個別にご案内します。
FAQ
Q1.決算が赤字なら、決算前に申し込む方がよいですか?
一概にはいえません。赤字の理由、一時的な費用、足元の改善、新規事業の見通し、返済余力を確認します。数字を隠すのではなく、どの資料で実態を説明できるかを金融機関と相談します。
Q2.試算表は何月分まで必要ですか?
申込先や時期によります。少なくとも、古い試算表のままにせず、未入力・未確認の範囲を明らかにします。申込み直前の月まで求められる場合もあるため、事前に確認してください。
Q3.融資希望額は、借りられる上限から決めればよいですか?
先に必要資金を積み上げます。設備資金、運転資金、自己資金、既存の現預金、入金までの期間を整理し、必要額と返済可能額の両面から検討します。
Q4.顧問税理士がいれば融資は通りますか?
税理士の関与だけで審査結果は決まりません。帳簿の整備や計画作成を支援できますが、融資の可否は金融機関が個別に判断します。
Q5.決算直前でも相談できますか?
相談できます。ただし、帳簿の遅れや残高不一致が大きいほど、申込みに使える資料を作るまで時間がかかります。支払予定が分かった段階で、早めにご相談ください。
まとめ
新規事業の融資では、決算前か決算後かより、資金が必要な日、使える会計資料、入金までの期間、返済条件を一つの時系列にすることが先です。決算前に相談しておけば、待つべきか、現行資料で進めるべきかも具体的に判断できます。
新規事業の契約・発注が迫っている方は、現在の試算表と資金使途のメモを添えて、お問い合わせフォームからご相談ください。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的とし、融資の承認や条件を保証するものではありません。必要資料、審査期間、金利、返済条件は、制度、金融機関、申込時期、会社の財務状況等により異なります。具体的な申込みは、金融機関および税理士等の専門家へご確認ください。

