決算を締めた翌朝に、前の月の日付が入った請求書が届く。会計ソフトにはまだ何も入っていない。支払いは翌月です。
このとき、「届いたのも払うのも翌期だから、翌期の経費でよい」と考えたくなります。ただ、決算では請求書が届いた日や支払日だけを見ても答えは出ません。商品を受け取った日、サービスを受けた日、金額がどこまで確定していたかを順番に確認します。
請求書の日付ではなく、期末までに何が終わっていたかで判断します
法人税では、販売費・一般管理費などを当期の損金にするには、原則として期末までに債務が確定している必要があります。国税庁は、債務の成立、具体的な給付原因となる事実の発生、金額の合理的な算定という三つの要件を示しています。
たとえば、期末までに修理が完了し、契約や見積書から金額を客観的に見積もれるなら、請求書が翌期に届いても当期の未払金として検討できます。反対に、期末時点では作業が終わっていない、検収が済んでいない、金額の根拠もないという場合は、単に見積額を置けばよいわけではありません。
見る順番は「請求書の日付→支払日」ではなく、「納品・役務完了→債務の成立→金額の算定→請求書・証憑」です。
「翌月払いだから翌月経費」が危ない理由
会計は、お金が動いた日だけを記録するものではありません。サービスを受けたのが当期で、支払いだけが翌期なら、当期に費用と債務を認識するのが基本です。これが未払計上です。
ここを支払日だけで処理すると、当期の利益が多く、翌期の利益が少なく見えます。税額だけでなく、銀行へ出す決算書や月次比較もずれてしまうんですよね。
もっとも、契約内容や検収条件によって役務が完了した時点は変わります。継続的なサービス、成果物の検収が必要な業務、期間をまたぐ工事などは、請求書の品名だけでは判断できません。
決算後に請求書が届いたら、5段階で確認します
1.商品やサービスを実際に受けた日を確認する
物品なら納品日、修理なら完了日、月額サービスなら対象期間を確認します。「請求日」と「取引が実際に完了した日」は同じとは限りません。
2.契約上、支払う義務が成立していたかを見る
注文書、契約書、メール、検収記録などから、期末までに会社の支払義務が成立していたかを確認します。キャンセルできる段階だった、追加作業の範囲が未確定だったという場合は、当期費用と断定できないことがあります。
3.金額を合理的に算定できたかを確かめる
確定した単価と数量、合意済みの見積書、契約書の月額など、計算根拠が必要です。「たぶんこのくらい」という社内メモだけでは弱いことがあります。後日届いた請求額と差がある場合は、差額の理由と修正方法も残します。
4.同じ費用を二重に入れていないか調べる
急いで未払計上したあと、翌期に銀行連携や請求書連携から同じ費用が自動登録されることがあります。翌期の支払処理は、費用をもう一度計上するのではなく、原則として未払金を消す処理です。
取引先名、金額、摘要だけでなく、請求番号や対象期間で突合すると二重計上を見つけやすくなります。
5.消費税とインボイスの保存を別に確認する
消費税も、原則として支払日ではなく、資産の引渡しやサービス提供の時期を基準にします。ただし、仕入税額控除には帳簿と適格請求書等の保存要件があります。法人税の費用計上ができることと、消費税の控除要件を満たすことは、同じ確認ではありません。
ここがポイントです。会計ソフトで「課税仕入れ」と選んだだけでは保存要件の確認は終わりません。請求書が未着なら、入手時期、保存方法、期末処理後の照合手順まで決めておきます。
期限ごとに、やることを分けると混乱しません
| 時点 | 確認すること | 残す資料 |
|---|---|---|
| 期末前 | 未請求の取引を担当者へ照会 | 発注・契約・納品・検収の記録 |
| 期末直後 | 当期分か翌期分か、金額を算定できるか確認 | 見積書、計算根拠、未払一覧 |
| 請求書到着時 | 未払計上額と請求額を照合 | 請求書、差額説明 |
| 支払時 | 未払金を消し、費用を重ねない | 振込記録、会計仕訳の参照情報 |
| 申告前 | 法人税・消費税・証憑保存を横断確認 | 最終未払一覧、証憑保管先 |
処理の考え方
3月決算の会社が、3月中に完了した設備点検について、4月に33万円の請求書を受け取り、5月に支払ったとします。3月末までに点検が完了し、契約で料金が決まり、会社の支払義務も成立しているなら、3月期の未払費用または未払金として検討します。
4月に請求書を受け取った際は、3月末の見積額と一致するかを照合します。5月の支払時は、費用を新しく計上するのではなく、未払金を決済する処理が基本です。
一方、3月には現地確認だけで、作業完了と検収が4月だったなら結論は変わり得ます。日付が一つ違うだけに見えますが、税務では取引の中身が先です。
よくある誤解
請求書がなければ、当期の経費には絶対できませんか?
請求書の未着だけで直ちに否定されるとは限りません。期末までの債務確定と金額の合理的算定を、契約書や納品記録などで説明できるかを確認します。消費税の仕入税額控除には別途、帳簿・請求書等の保存要件があります。
少額なら、全部翌期に回してもよいですか?
重要性や継続処理の検討はありますが、少額なら無条件で翌期処理できるという一律の基準ではありません。会社の会計方針、継続性、税務上の扱いを確認してください。
請求書の日付を3月に直してもらえば解決しますか?
いいえ。日付を合わせることより、実際の納品・役務提供・検収・債務の成立を説明できることが大切です。実態と異なる日付へ変更を求めるのは避けます。
freeeなどの自動連携なら二重計上は起きませんか?
未払仕訳、請求書連携、銀行明細が別々に登録されれば、同じ取引が重なることがあります。自動化しているからこそ、決算時は未払一覧と翌期の支払データを突合します。
相談前にそろえたい資料
- 決算後に届いた請求書の一覧
- 契約書、注文書、見積書
- 納品書、作業完了報告、検収記録
- 取引先とのメールなど、金額と完了時期が分かる記録
- 会計ソフトの未払金・買掛金明細
- 翌期の銀行・カード明細
- 消費税の申告方式とインボイスの保存状況
請求書だけを集めるより、「いつ何が終わったか」が分かる資料を一緒に出す方が判断は早くなります。
税理士へ相談するなら、申告書を作り始める前がよいです
未払の確認は、申告直前に一件ずつ探すより、決算直後に一覧化する方がスムーズです。請求書が大量に遅れて届く、前期にも同じ処理がある、消費税の区分が分からない、会計ソフトの自動連携が重複している場合は、決算整理を確定する前にご相談ください。
浅井匠也税理士事務所では、帳簿と証憑を確認し、決算申告だけで足りるのか、記帳の修正や継続的な税務顧問まで必要かを整理します。支援内容は法人向け税務・会計サービス、料金の目安は法人顧問料金をご覧ください。個別の契約条件は、見積書・契約書でご案内します。
決算が近い方は、請求書の枚数より先に、未請求・未払の取引を担当者ごとに洗い出す。結局、これが一番の近道です。ご状況はお問い合わせフォームからお知らせください。
本記事は一般的な会計・税務情報です。損金算入時期、未払計上、消費税区分、仕入税額控除、修正方法は、契約条件、取引実態、重要性、申告状況、保存資料により異なります。個別の処理は資料を確認したうえで判断してください。

